公募研究班FY2020-

胸ヒレ鰭条の種内ゆらぎを生み出す発生メカニズムと種間形態多様性
研究代表者 阿部 玄武 (東北大学)

公募研究 20H04854
研究内容  
胸ヒレ鰭条の種内ゆらぎを生み出す発生メカニズムと種間形態多様性
研究代表者 阿部 玄武 (東北大学)


硬骨魚の胸ヒレは脊椎動物の器官の中でもっとも多様性に富んだ構造の一つで、器官の発生や機能を形態進化に結びつける非常に良いモデルとなる。その胸ヒレの先端部骨格である鰭条は、多くの魚種で個体ごとに本数のゆらぎが見られる。また、鰭条は魚類が様々な環境に適応するのに多様な形態も示す。例えば、海底に生息するホウボウ科魚種は、鰭条の一部を独立に運動可能にした特殊な構造(遊離軟条;触腕のような感覚器ともなる)を持つ。
 これまでの研究で、ゼブラフィッシュの胸ヒレ鰭条が前後軸に沿って3つの区画に分けられ、後方の区画ほど本数のゆらぎが見られること、そしてこのゆらぎに発生過程の環境要因が重要であることを突き止めている。本研究では、この環境に応答しゆらぎを生み出す発生メカニズムがどのようなものかを明らかにする。そして、その発生メカニズムがホウボウ科魚種カナガシラの遊離軟条の形態進化に関わる可能性を調査する。これにより、種内ゆらぎの元となる発生メカニズムと種間の形態進化の関係を議論する。
軟体動物割球特異化機構を題材にした発生システム浮動の方向性と制約の解明
研究代表者 守野 孔明 (筑波大学)

公募研究 20H04855
研究内容  
軟体動物割球特異化機構を題材にした発生システム浮動の方向性と制約の解明
研究代表者 守野 孔明 (筑波大学)


近年、発生システム浮動 (DSD)と呼ばれる、相同な形質が生物によって異なった発生経路によって形成される事例が認識されてきた。DSDは表現型の変更を起こさないため、自然選択のもとで進化の源泉となる変異が発生経路に蓄積されることを説明できる現象である。従って、DSDが起きる仕組みや、DSDに見られる方向性と制約の解明は、発生進化の方向性と制約の理解へとつながると考えられる。私はこれまでの研究で、保存された割球運命地図を示すことが一般に知られる軟体動物内であっても、相同な割球系列の運命特異化機構は必ずしも保存されておらず、大規模な進化時間にまたがるDSDが起きていることを示してきた。加えて、それぞれの割球系列に多数の転写因子群が発現していることから、発生システムの冗長性が発生経路の変動を許容し、DSDを引き起こすという仮説を提唱した。以上の成果を土台として、本研究では軟体動物腹足類3種を対象とし、(1)領域の主題である、種内に見られる発現揺らぎの傾向とより長期的なタイムスパンで起きた進化の結果であるDSDの傾向に相関があるのかを解明する。合わせて、(2)各割球系列における運命特異化機構の冗長性の程度を実験的に調べ、冗長性の程度と発現揺らぎおよびDSDの傾向に関連性が見られるかを明らかにする。これにより、発生システムの冗長性が発現揺らぎおよびDSDを許容し、方向性や制約を作り出すことに関与しているのかを検証することを目指す。
特異的相互作用の進化:植物自家不和合性を用いた理論と再現実験によるアプローチ
研究代表者 土松 隆志 (東京大学)

公募研究 20H04856
研究内容  
特異的相互作用の進化:植物自家不和合性を用いた理論と再現実験によるアプローチ
研究代表者 土松 隆志 (東京大学)


共進化する生物同士にはしばしば,特定の相手としか相互作用しないというパートナー選択の特異性がみられる.このような特異性を担う分子的実体は受容体とリガンドであることが多いが,新しい特異性,すなわち「新しい受容体とリガンドのセット」はどのように進化するのかという問題が以前から指摘されていた.受容体とリガンドのいずれかが変化すれば互いに認識されず,特異性は崩れてしまう.このような中間状態を乗り越え新しい特異性はどう進化するのか.本研究では,自家受精を防ぐ自己認識機構である植物の自家不和合性を対象にこの問題に取り組む.特に着目するのが,自家不和合性の受容体とリガンドの特異性が不安定化し部分的に自家和合化するような,特異性の「ゆらぎ」現象である.本研究は,数理モデルと形質転換実験により自家不和合性の進化過程を予測・再現することを通して,特異性のゆらぎと新規受容体-リガンドのセットの進化可能性との関係を,理論と実験の両面から探ることを目的とする.
多次元形質空間におけるマルチレベルな表現型のゆらぎの統合と進化の方向性の予測
研究代表者 高橋 佑磨 (千葉大学)

公募研究 20H04857
研究内容  
多次元形質空間におけるマルチレベルな表現型のゆらぎの統合と進化の方向性の予測
研究代表者 高橋 佑磨 (千葉大学)


種内には、ふつう、進化の素材である遺伝的な多様性が存在しています。そのため、選択圧さえ働けば進化が際限なく起こると考えられています。しかし、実際には、進化にはさまざまな制約が存在しており、この制約は小進化と大進化のギャップとして現れてきます。この制約のメカニズムを研究することで、小進化や大進化の進化や方向性を予測、さらには小進化と大進化を有機的に繋ぐアイデアに結びつくと期待されます。私は、野外のショウジョウバエ属昆虫を使用し、形質間の分散共分散行列を個体内(可塑性や発生のゆらぎ)や個体間、集団間、種間などのさまざまなスケールで算出し、各行列を比較することで進化の速度や方向性の制約要因を検出しようと考えています。
顔面原基のプロポーションが哺乳類系統でだけ激変した背景にある、発生上の制約
研究代表者 東山 大毅 (東京大学)

公募研究 20H04858
研究内容  
顔面原基のプロポーションが哺乳類系統でだけ激変した背景にある、発生上の制約
研究代表者 東山 大毅 (東京大学)


脊椎動物は、同一セットの顔面原基の量的な曲げ伸ばしと組合せで顔面形態を作っている。我々はこれまでに、現生哺乳類では哺乳類以外の羊膜類に比較して、原基の組合せが極端にシフトし"哺乳類顔"を作ることを現象として示した。では、この原基シフトの背景にある発生上の機構は何だろうか。また同変化が哺乳類で"だけ"起こったのはなぜだろう。
本研究課題ではマウス、ニワトリ、スッポンなど羊膜類の咽頭胚から顔面の形成される過程を、主にμCTスキャンを用いて経時的に可視化、なんとか定量化し、「羊膜類各系統での特有な顔面原基の形態が、発生上どこが最もダイナミックに変化することで生じるのか」「同一種内で揺らぎうる原基のサイズはどの範囲か」「例えばニワトリの眼胞を縮小するなど人為的な摂動を与えたとき、哺乳類型に近づくのかどうか」を検証する。本研究より羊膜類顔面のプロポーションを作る法則性についての考察を試み、将来的な進化可能性についてまで言及できればと企んでいる。
RNAの構造揺らぎの大きさから進化しやすさを予想し制御する
研究代表者 市橋 伯一 (東京大学)

公募研究 20H04859
研究内容  
RNAの構造揺らぎの大きさから進化しやすさを予想し制御する
研究代表者 市橋 伯一 (東京大学)


生物進化に対する制約のひとつとして、揺らぎの大きな表現型が進化しやすいという傾向(揺らぎ応答理論)が提唱されている。しかしながら、未だ実験的な検証は十分ではなく、またこの理論を用いて進化しやすさや方向性を予測することはできていない。近年我々は、生物と同じように変異と自然選択により自律的に進化する分子システム(RNAの自己複製システム)を構築した。RNAの場合、遺伝型(RNA配列)から表現型(RNA構造)とその揺らぎまでを計算することができる。したがって、進化による配列変化が表現型とその揺らぎをどう変えたかを曖昧さなく理解することができる。さらに配列をデザインすることで、揺らぎの大きさを自由に変えることもできる。したがって、この系は揺らぎ応答理論の検証のために理想的な実験モデルとなっている。前回の公募研究では、これまでに行った進化実験中に現れた一部(9種類)のRNAの進化の方向性について、揺らぎ応答理論と一致することを見出した。今回の研究提案では解析対象を進化実験中に現れたすべてのRNA(64種類)へと拡大する。そしてさらに1歩踏み込んで、揺らぎ応答理論に基づいて進化のしやすさを予想し制御できるかを検証する。これができれば、進化はこれまでのようにただ観察するものではなく、予想と制御が可能なものとなるだろう。本研究成果は将来的にはRNAだけではなくタンパク質や生体へも発展させ、進化工学の飛躍的な効率化にも貢献できる。
倍数ゲノム複製機構がもたらす新規機能獲得と進化速度の両立
研究代表者 大林 龍胆 (東京大学)

公募研究 20H04862
研究内容  
倍数ゲノム複製機構がもたらす新規機能獲得と進化速度の両立
研究代表者 大林 龍胆 (東京大学)


古くから倍数体生物は環境変動などへの適応能力が高いことが示唆されているが、その基本原理の解明には至っていない。ゲノム倍数化と進化との関係について、有名な仮説として大野乾によって提唱されたゲノム重複説がある。これは、ゲノム重複により冗長性が生じ、正常な遺伝子を保持したまま、コピー遺伝子を改変でき、新規形質の進化が促進されると考えられている。他方、Fisherの基本定理によれば、進化における適応度の増加率は、適応度の分散に比例する。しかし1細胞あたりのゲノムコピー数が多い状態では、1つのゲノムに変異が入っても、その他の正常コピーによってその効果が弱められるため、変異の効果が表現型として現れにくく、結果として進化速度は遅くなる。本研究では、この二つの概念を統合して、ゲノム倍数体の進化を実験生物学により定量的に捉え、ゲノム倍数化と進化に関する普遍的な原理の解明を目指す。
本研究ではモデル生物としてシアノバクテリアという光合成原核生物を用いる。シアノバクテリアには1倍体のものから5、10、または20コピー以上ものゲノムをもつ種が存在するなど、倍数性は非常に多様である。しかし、そもそもなぜこのような倍数性の違いが生じるのかという基本的なメカニズムはわかっていない。本研究は進化可能性に加え、倍数性が変化する仕組みについても構成的実験によって解明していく。
酸素で生じた「ゆらぎ」が「パターン形成プログラム」へと進化した分子基盤の解明
研究代表者 田中 幹子 (東京工業大学)

公募研究 20H04863
研究内容  
酸素で生じた「ゆらぎ」が「パターン形成プログラム」へと進化した分子基盤の解明
研究代表者 田中 幹子 (東京工業大学)


四肢のパターン形成において、指と指間の分離は、両生類では細胞の増殖速度の違いによって行われるが、羊膜類になると指間の細胞が死ぬ「指間細胞死」によって行われるようになる。我々は、前回の公募研究では、四肢動物が「大気中の酸素」に曝されると、指間に血管網を介して酸素が供給され、さらに活性酸素種が産生されて指間細胞死が促されるという研究成果を得た (Cordeiro et al., 2019 Dev Cell)。さらに、両生類であっても、胚発生中に高い酸化ストレスに曝されると指間に活性酸素種が産生され細胞死が誘発されることが明らかとなったが、両生類の指間細胞死は一部の細胞にとどまり、パターン形成にはほとんど影響を与えていなかった。これらの結果は、指間には元々細胞死が生じうる分子的な背景は揃っており、両生類の指間では酸化ストレスに応答した「可塑的変化」として生じた細胞死が、羊膜類では四肢の「パターン形成に不可欠な発生プログラム」へと進化したことを示唆していた。そこで本研究では、ストレスに応答した個体発生の「ゆらぎ」として生じた細胞死が、「パターン形成に不可欠な発生プログラム」へと進化した分子的背景に迫ることを目標に研究を行うこととする。
腸内感染と運動性の揺らぎが導く細菌病原性分泌装置への進化の実験的解明
研究代表者 寺島 浩行 (名古屋大学)

公募研究 20H04864
研究内容  
腸内感染と運動性の揺らぎが導く細菌病原性分泌装置への進化の実験的解明
研究代表者 寺島 浩行 (名古屋大学)


細菌は、運動器官として「細菌べん毛」と、病原性タンパク質注射装置として「III型分泌装置」を持つ。両者はアミノ酸配列や複合体構造の相似性から、同じ起源の細胞小器官であると考えられている。また、III型分泌装置は高等生物への感染に特化したシステムであることから、べん毛からIII型分泌装置へと機能分化・進化したと考えられている。しかしながら、どのような遺伝的変化・環境要因・表現型の変遷をたどってIII型分泌装置へと進化したのか明らかではない。そこで、本研究では「細菌べん毛によるタンパク質分泌の揺らぎとマウス腸内での選択圧がIII型分泌装置への進化を駆動する」という可能性の検証を行う。
まず、III型分泌装置が欠損し病原性を失い、代わりにべん毛から病原性タンパク質を分泌するように変異させたサルモネラ菌を作成する。次に、その菌株をマウスへ継続的に感染させ、マウス腸内での生存選択圧を与える。III型分泌装置の欠損で病原性を失っている菌株から、病原性が回復する変異体を取得する。そしてゲノム解析により、べん毛からIII型分泌装置への進化を駆動する遺伝的変化の推定を行う。そして、共生・感染過程によってどのような進化の方向性が、べん毛機能・構造、あるいはゲノム全体に対して与えられるのか明らかにする。
神経ネットワークにおけるゆらぎと進化的保存性の関係
研究代表者 石川 由希 (名古屋大学)

公募研究 20H04865
研究内容  
神経ネットワークにおけるゆらぎと進化的保存性の関係
研究代表者 石川 由希 (名古屋大学)


異性への好み(配偶者選好性)はほぼ全ての生物が持つ性質であり、『同種を好み、異種を避ける』という点で共通しています。一方、種内に目を向けると、配偶者選好性は一様ではなく、個体によってさまざまです。この種内で揺らぐ配偶者選好性は、どのように種分化の過程で分岐/固定していくのでしょうか? また、この揺らぎが選好性の分岐や種分化に果たす役割はあるのでしょうか?この謎を解くために、私はショウジョウバエのフェロモン選好性をコードする神経ネットワークに着目しています。モデル生物であるキイロショウジョウバエでは、メスの持つフェロモンへの選好性を担う神経ネットワークが詳細に解析されています。私はこの神経ネットワークを種間や種内で丁寧に比較することにより、フェロモン選好性がどのような機構で分化したのか、また神経ネットワークの揺らぎがどのようにこの分化に貢献するのかを明らかにしようと考えています。本研究を通じて、神経ネットワークの揺らぎがどのように行動進化や種分化を駆動するのかを定量的に実証し、『揺らぎ応答理論』が行動形質や神経ネットワークにおいても拡張できるかを検証します。
細胞ターンオーバーを介した表現型制約とその分子基盤の解明
研究代表者 大澤 志津江 (名古屋大学)

公募研究 20H04866
研究内容  
細胞ターンオーバーを介した表現型制約とその分子基盤の解明
研究代表者 大澤 志津江 (名古屋大学)


種々の内的・外的撹乱により個体発生に遅れが生じた際、その遅れを補正する頑健な(ロバストな)仕組みが存在すると考えられます。私たちは最近、(1)幼虫期のショウジョウバエが発生遅延を起こした際に、その遅延を補正する細胞集団挙動「細胞ターンオーバー」が翅原基で誘発されること、および、(2)この細胞ターンオーバーを遺伝学的に抑制すると、種々の表現型が成虫翅に出現することを見いだしました。これらの事実は、細胞ターンオーバー機構の偶発的なエラーが多様な表現型を出現させ得る可能性を示唆しています。本研究では、表現型制約を行うこの未知の細胞集団挙動の分子基盤とその役割を解析し、さらにはその破綻によって「表現型の揺らぎ」が引き起こされる仕組みを明らかにします。それにより、「個体の成長遅延に呼応した細胞集団挙動の局所的変化」という、表現型制約を担う新たな発生ロバストネス原理の解明を目指します。
仙椎-後肢ユニットの形態の制約と個体間の位置のゆらき?を生み出す分子機構の解明
研究代表者 鈴木 孝幸 (名古屋大学)

公募研究 20H04867
研究内容  
仙椎-後肢ユニットの形態の制約と個体間の位置のゆらき?を生み出す分子機構の解明
研究代表者 鈴木 孝幸 (名古屋大学)


脊椎動物において、体の前後軸パターンは発生中に将来の脊椎骨となる体節に発現するHox遺伝子群によって領域分けされ、それぞれの体節レベルに特定の器官が形成されることで、秩序だった体の構造(椎式など)が完成する。近年の研究で我々は、体節の前駆組織である中軸中胚葉の後端に発現するTGF-bスーパーファミリーの分泌因子GDF11が、隣接する側板中胚葉にも同時に直接作用し、中軸中胚葉では仙椎の個性の決定を行うHox11の発現を誘導すると同時に、側板中胚葉では後肢形成に必須な5’Hox遺伝子群(Hox9-13)の発現を誘導することで、仙椎の位置に必ず後肢を形成する働きを持つことを発見した。興味深いことに体の前後軸に沿った仙椎-後肢ユニットの位置は種内で異なる個体が存在する。例えばマウスでは正常個体においても腰椎と仙椎の境界の位置が脊椎骨2つ分異なる個体が出現し、シマヘビでは同一の母親から生まれた兄弟間でも仙椎の位置は最大で脊椎骨14個分異なる。そこで本研究では、GDF11による5’Hox遺伝子群の発現誘導機構の保存性(制約)と、GDF11の発現量の個体間の違い(ゆらぎ)及び誘導された5’Hox遺伝子群の発現領域が個体間でゆらぐ仕組みを調べることで、個体間での仙椎-後肢ユニットの位置のゆらぎが生まれるメカニズムを明らかにすることを目指す。仙椎-後肢ユニットの位置の多様性に見られるアロモルフォーゼは、種間のGdf11の発現開始タイミングの違いにより、ファイロタイプ期の脊椎動物胚に見られる5’Hox遺伝子群の発現領域をまとめて変化させることによってもたらされた、アルシャラクシス的な進化過程であると言える。本研究により、椎式のアルシャラクシス的な進化を誘導しえた発生メカニズムの実体にも迫りたい。
実験生態系の摂動と継代による生態系の揺らぎ応答関係の解明
研究代表者 細田 一史 (大阪大学)

公募研究 20H04868
研究内容  
実験生態系の摂動と継代による生態系の揺らぎ応答関係の解明
研究代表者 細田 一史 (大阪大学)


生物は内部にも外部にも複雑なネットワークを有する階層構造の中に存在し、生物の進化はこの内部構造による制約と、外部生態系での選択圧の両面に制限される。よって進化の理解には階層をまたぐ必要があり、異なる階層を同じ理論で記述できれば大きく前進する。生物の階層において内部構造制約を表現する「揺らぎ応答理論」があるが、原理的には生態系においても、短期的な揺らぎと長期的な変化には同様の関係がありえる。

本研究では、揺らぎ応答理論が生態系レベルにも適用可能かを実験的に明らかにする。これまで、実験生態系の自発的な変化について揺らぎ応答関係を調べたが、明示的な関係は観察されなかった。そこで本研究では、より能動的な摂動実験と進化実験により、揺らぎ応答関係を解明する。

もし揺らぎ応答理論が生態系レベルにも適用可能であり、その原理が解明されたらば、生物の上下の階層をまたぐ理論へと発展し、自然選択などを含む統合理論の構築が飛躍的に進歩するだろう。また人類の緊急課題である生態系変化の理解と予測も躍進するだろう。
発現量揺らぎ-適応系により探索する発現変動の適応-進化への影響
研究代表者 守屋 央朗 (岡山大学)

公募研究 20H04870
研究内容  
発現量揺らぎ-適応系により探索する発現変動の適応-進化への影響
研究代表者 守屋 央朗 (岡山大学)


細胞内のタンパク質には、発現量の変動が適応度に強い影響を与える(強い制約を受けている)ものと、発現量を多少変動させても適応度に影響を与えない(制約を受けていない)ものがあります。私たちは、出芽酵母(S. cerevisiae)のほとんどの種類のタンパク質について、それぞれの発現量がどれくらい制約を受けているのかを、独自の発現量揺らぎ-適応系(gTOW法)により調べてきました。その結果、大半のタンパク質の発現量は制約を受けていない一方、2%程度のタンパク質の発現量のみが強い制約を受けている事を明らかにしました。本研究では、発現量揺らぎ-適応をハイスループット化させた実験系により、課題1:発現量の制約は環境により変わるのか、課題2:発現量揺らぎは適応-進化に寄与するのか、課題3:発現変動による適応はどのようなメカニズムにより達成されるのかを追求します。
自己組織化過程における細胞の揺らぎと対称性の破れ
研究代表者 守山 裕大 (青山学院大学)

公募研究 20H04871
研究内容  
自己組織化過程における細胞の揺らぎと対称性の破れ
研究代表者 守山 裕大 (青山学院大学)


生物の特徴の一つは、胚発生から生体の形態・生理機能の維持まで、エントロピー(乱雑さ)が増加しないことである。特に胚発生においては、はじめはひとつの細胞(受精卵)であったものが細胞分裂を繰り返し、個々の細胞の運命が決定されることで種特有の体制を作り上げていく。これまでの研究から、胚発生においてはモルフォゲンの濃度勾配による位置情報の供与によって胚の極性が確立することなどが示されてきた。また、近年では胚から細胞を抽出し適切な環境下で培養すると、細胞集団が自己組織化し極性が確立することが報告されている。では、このような細胞集団の秩序立った組織化の背景にはどのようなメカニズムが存在しているのだろうか?また、そのようなメカニズムは進化の過程においてどの程度変化しうるものなのだろうか?
本研究課題ではゼブラフィッシュ胚から作成される細胞塊を用いて、自己組織化過程における細胞の振る舞いと極性の確立について、特に細胞のゆらぎや細胞/細胞集団における物性的性質に着目してその関係性を明らかにする。さらに、異種間におけるそれら性質の共通性/相違性について明らかにすることで、進化の過程において細胞の物性的性質がどの程度変化しうるか、また発生拘束となりうるかという点についても検討したい。
トランスクリプトームのゆらぎがもたらす新規ニッチへの進出能力
研究代表者 石川 麻乃 (国立遺伝学研究所)

公募研究 20H04873
研究内容  
トランスクリプトームのゆらぎがもたらす新規ニッチへの進出能力
研究代表者 石川 麻乃 (国立遺伝学研究所)


生物の新規ニッチへの進出は、新規形質の獲得や種分化、大進化を促進する。一方で、全ての生物種が同一の新規ニッチ進出能力を持つわけではなく、ニッチが存在しても、それらに進出できる系統群とできない系統群が存在する。本研究では、この制約と方向性を生む機構として、トランスクリプトームのゆらぎの違いに着目する。モデルとするのは、淡水ニッチへの進出能力が異なるトゲウオ科イトヨ2種である。イトヨは世界各地で海から淡水への進出に成功し、多様化を遂げている一方、近縁種であるニホンイトヨは淡水域に一切進出していない。これまでの私たちの研究から、ニッチ進出能力の高いイトヨは、進出能力の低いニホンイトヨに比べて遺伝子発現のゆらぎが大きいことが示唆された。そこで、このゆらぎの違いを生むゲノム領域/候補変異を同定し、それらが新規ニッチ進出に果たす具体的な役割を実験的、定量的に解析する。
テントウムシ斑紋の揺らぎから探る表現型進化の制約と方向性
研究代表者 新美 輝幸 (基礎生物学研究所)

公募研究 20H04874
研究内容  
テントウムシ斑紋の揺らぎから探る表現型進化の制約と方向性
研究代表者 新美 輝幸 (基礎生物学研究所)


本研究は、温度という環境変化に対して斑紋の黒点サイズが揺らぐ明瞭な現象を有するテントウムシに着目する。研究材料には、種・属・科のレベルで斑紋に多型性及び単型性を示す各種テントウムシを用いる。申請者が世界に先駆けてナミテントウにおいて同定した翅の黒色領域のパターンを決定する転写因子をコードするpannier (pnr)遺伝子(斑紋プレパターン遺伝子)に焦点を絞り、材料に用いる昆虫の利点や申請者がこれまでに確立した遺伝子機能解析法を活かし、pnr遺伝子の温度応答エンハンサーを通して、黒点サイズという表現型の揺らぎと斑紋多型という進化の可変性について「揺らぎ応答理論」が適用可能かを検証する。
相同器官固有の形態形成ダイナミクスの標準形と発生組織内の位置価を適切に測る座標系
研究代表者 森下 喜弘 (理化学研究所)

公募研究 20H04876
研究内容  
相同器官固有の形態形成ダイナミクスの標準形と発生組織内の位置価を適切に測る座標系
研究代表者 森下 喜弘 (理化学研究所)


最近我々は、ニワトリとカエルの四肢発生過程における組織変形動態を定量的に比較することで、適切な座標系の下では両ダイナミクスが共通の細胞フローによって表現可能であることを明らかにした [Morishita et al., 未発表]。本研究では、器官の形態多様性や遺伝子発現パタンの種間比較を行うための適切な座標系を、形態形成プロセスを表す組織変形動態から導入することで、進化を客観的に科学するための一つの基準を与えることを目標にする。また、器官固有の形態形成ダイナミクスの標準形等の概念の深化や分野への浸透にも貢献したい。