神経ネットワークの揺らぎは配偶者選好性の進化を規定しうるか
研究代表者 石川 由希(名古屋大学)ガッチリした相手が好きな人もいれば、スマートな相手が好きな人もいるように、異性への好み(=配偶者選好性)は個体によってさまざまです。ところが、この配偶者選好性は、『同種を好み、異種を避ける』という点で、ほぼ全ての生物において共通しています。この種内で揺らぐ配偶者選好性は、どのように種分化の過程で分岐/固定していくのでしょうか? また、この揺らぎが選好性の分岐や種分化に果たす役割はあるのでしょうか?
この謎を解くために、私は配偶者選好性をコードする神経ネットワークの種間差に着目しています。キイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエは約540万年前に分岐した姉妹種ですが、自然環境下では全く交雑しません。この生殖隔離には、祖先型の種が持つ雌フェロモン7,11-HDに対する選好性が重要であることが知られています。祖先型に属するキイロショウジョウバエが7,11-HDにより求愛を促進させる一方で、オナジショウジョウバエは同一成分により求愛を抑制させます。このことから、7,11-HD選好性は、この2種の種分化の過程において何らかの機構により分岐し、それぞれの種で固定したと考えられます。一体どのような機構がこの分岐をもたらしたのでしょうか?
モデル生物であるキイロショウジョウバエでは、7,11-HD選好性を担う神経ネットワーク(7,11-HD選好性神経ネットワーク)が詳細に解析されています。私はこの7,11-HD選好性神経ネットワークを種間や種内で丁寧に比較することにより、7,11-HD選好性がどのような機構で分化したのか、また神経ネットワークの揺らぎがどのようにこの分化に貢献するのかを明らかにしようと考えています。本研究を通じて、神経ネットワークの揺らぎがどのように行動進化や種分化を駆動するのかを定量的に実証し、『揺らぎ応答理論』が行動形質や神経ネットワークにおいても拡張できるかを検証します。