公募研究班

胸鰭の鰭条本数の個体間ゆらぎ要因と種間形態多様性
研究代表者 田村 宏治 (東北大学)

公募研究 18H04811
研究内容  
胸鰭の鰭条本数の個体間ゆらぎ要因と種間形態多様性
研究代表者 田村 宏治 (東北大学)



最近わたしたちは、ゼブラフィッシュの胸鰭鰭条の本数が一定ではなく個体内および個体間でばらついており、その揺らぎは系統によって異なることを見出しました(未発表)。鰭条数が揺らぐのは後方部位に制限されており、この部位は脊椎動物全体の付属肢形態の多様性を担っている部位に相関しています。本研究では、前肢の相同器官である胸鰭における、鰭条の本数に部位的制約をもって種内で揺らぎを起こす要因とその要因が標的とするカスケードを特定し、さらにその要因と魚類の特殊な鰭条(遊離軟条)形成や四足動物の指本数多様性形成との関係を示すことを目標とします。これらにより「種内で揺らぎやすい仕組みを用いることで、同一部位から作られる構造の種間多様性や形態特殊性を生み出す可能性を高めている」という仮説を検証します。本課題を表現型の揺らぎと形態進化を議論する好適モデルのひとつとして、本領域の中心命題のひとつである「表現型の揺らぎ」研究に貢献したいと考えています。
種内多様性を生み出すメカニズムと種間多様性を生み出すメカニズムと関係を議論するチャンスを与えていただきました。研究コミュニティーへの学術的な成果発表はもちろん、アウトリーチ活動としての成果発信も積極的に行い、領域の研究推進および領域の目指す新しい進化学の啓蒙活動にも貢献したいと思います。
軟体動物割球特異化機構を題材にした発生システム浮動の方向性と制約の解明
研究代表者 守野 孔明 (筑波大学)

公募研究 18H04812
研究内容  
軟体動物割球特異化機構を題材にした発生システム浮動の方向性と制約の解明
研究代表者 守野 孔明 (筑波大学)



らせん卵割動物(軟体動物、環形動物など)の初期発生の特徴として、初期卵割がらせん状に進むことに加え、卵の動物-植物極軸に沿って特定の位置に特定の発生運命を持った割球群が生じることが挙げられる。この動植軸に沿った発生運命の分配パターンは、動物門を超えてよく保存されていることが知られている。その一方で、実際に動植軸に沿った割球運命の規定を行う新規Homeobox遺伝子群SPILEは、動物門の内部でも遺伝子レパートリー及び発現パターンに大きなバリエーションが見られ、他の転写因子に比べ変異に富む性質があることが分かってきている。
 本研究では、保存されたらせん卵割型発生を示す軟体動物腹足類の複数種を用いて、初期発生期におけるSPILEを中心とした転写因子群の時空間的発現プロファイルにどれほどの相違があるかを検証する。これにより、数億年レベルで保存されている発生様式の背後に、どの程度の発生経路の浮動が許容されるのか、そこにはどのような傾向があるのかを解明する。
「鍵と鍵穴」の進化を解く:植物自家不和合性を用いた理論と再現実験によるアプローチ
研究代表者 土松 隆志 (千葉大学)
連携研究者 藤井 壮太 (東京大学)

公募研究 18H04813
研究内容  
「鍵と鍵穴」の進化を解く:植物自家不和合性を用いた理論と再現実験によるアプローチ
研究代表者 土松 隆志 (千葉大学)


共進化する生物同士にはしばしば,特定の相手としか相互作用しないというパートナー選択の特異性がみられる.このような特異性を担う分子的実体の多くは受容体とリガンドのような「鍵と鍵穴」のシステムであるが,新しい特異性,すなわち「新しい鍵と鍵穴のセット」はどのように進化するのかという問題が以前から指摘されていた.鍵と鍵穴のいずれかが変化すれば互いに認識されず,特異性は崩れてしまう.このような中間状態を乗り越え新しい特異性はどう進化するのか.本研究では,自家受精を防ぐ自己認識機構である植物の自家不和合性を対象にこの問題に取り組む. 
 今回特に着目するのが,自家不和合性の鍵と鍵穴のセット(「S対立遺伝子」と呼ぶ)の特異性が不安定化し部分的に自家和合化するような,特異性の「ゆらぎ」現象である.このようなゆらいだS対立遺伝子は,自家受精による近交弱勢を被るリスクはあるものの,条件によっては集団中から淘汰されずに維持され,新しいS対立遺伝子へと進化しうると予想される.本申請課題は,シミュレーションモデルとアミノ酸置換実験によりS対立遺伝子の進化過程を予測・再現することを通して,特異性のゆらぎと新しい鍵と鍵穴の進化可能性との関係を,理論と実験の両面から探ることを目的とする.
深層ネットワークを援用した表現型制約と表現型進化原理の探索と普遍構造の探求
研究代表者 小林 徹也 (東京大学)

公募研究 18H04814
研究内容  
深層ネットワークを援用した表現型制約と表現型進化原理の探索と普遍構造の探求
研究代表者 小林 徹也 (東京大学)


本研究では、近年明らかになった表現型ゆらぎを有する集団に普遍的に成り立つ変分構造と適応度ゆらぎ定理を基盤として、その結果に深層ネットワークに基づくモデル化と強化学習の知見を融合させることで、表現型制約と表現型進化の理論を発展させる。深層ネットワークを用いて抽象的かつ柔軟に表現型制約を表現し、深層強化学習の学習則から表現型進化過程のヒントと知見を得る。ネットワークの構造を工夫して、免疫系の表現型進化や1細胞複製過程の表現型制約・進化の問題にモデルを具体化する。シミュレーションを主体に探索的に得られた表現型進化の法則は、免疫受容体NGSデータや1細胞定量データなどを用いて実験との整合性を確かめる。また、進化と深層強化学習の両者に共通して現れる変分構造を介して、統一的な理論の構築を目指す。その成果は生命進化の理解を深め、深層ネットワークの学習法などにも寄与すると期待される。
武器と性形質進化における発生の拘束と可塑性
研究代表者 岡田泰和 (首都大学東京)

公募研究 18H04815
研究内容  
武器と性形質進化における発生の拘束と可塑性
研究代表者 岡田泰和(首都大学東京)


カブトムシの角やクジャクの羽といった性選択形質は,ひときわ目を引く巨大で美麗な“誇張された表現型”ですが,こうした武器や装飾はすさまじい種内・種間の多様性を持ち,進化的・発生的に“変わりやすい形質”であることが知られています.一方,節足動物の交尾器や哺乳類の脳など,他の体モジュールは生育時の環境によらず,ほぼ一定のサイズに発生し,発生プロセスも環境や遺伝的摂動に対して頑健な作りになっているものと考えられます.私は,武器をもつ昆虫をモデルとして,様々な体モジュールが,全体として機能的なパフォーマンスを持つよう統合的に発生する仕組みに興味を持っています.本研究では,オオツノコクヌストモドキなどの昆虫をモデルとして,武器をもたらす遺伝子,そして武器サイズに大きな“ゆらぎ”を許容する分子基盤を解明します.さらに,武器と他の体モジュールのあいだに発生的リンクをもたらすメカニズム解明にむけて,生態発生学解析(RNAiなどの実験的手法とトランスクリプトームによる網羅的発現解析,形態計測学による変異性の評価)を行います.近縁種や選抜系統との比較ゲノム解析, さらには他の昆虫類にも知見を拡張し,武器・性的形質の環境応答の仕組みと進化的応答の仕組みを読み解くことで,形態多様化のメカニズム解明に挑みます.
骨化順序ヘテロクロニーの揺らぎと制約
研究代表者 小薮 大輔 (武蔵野美術大学)

公募研究 18H04816
研究内容  
骨化順序ヘテロクロニーの揺らぎと制約
研究代表者 小薮 大輔 (武蔵野美術大学)


代表者が独自に構築してきた多種の哺乳類における胚発生コレクションは世界的にも類例が無く,これらを足掛かりにして,骨化順序における種内変異と種間変異を網羅的・包括的に解析する本課題は羊膜類の全身骨格発生の進化史とその制約を明らかにするだけでなく,進化の揺らぎ応答理論を検証する.本課題で注目する骨格系は脊椎動物を脊椎動物たらしめている重要形質であり,本課題は脊椎動物の身体にみられる保守性と多様性進化の背景を理解することに大きく貢献することができる.134 種の発生動態を大規模に解析する本課題の完遂によって,発生には羊膜類全体としてどのような制約性があるのか,どのような揺らぎ構造があるのか,どのような数理的構造性があるのか,骨格にはどのような進化方向性があるのかを明らかにすることができ,進化学・発生学・数理生物学をむすびつける横断的知見が得られると期待される.
酵素1分子の活性揺らぎと進化能の関係
研究代表者 上野 博史 (東京大学)

公募研究 18H04817
研究内容  
酵素1分子の活性揺らぎと進化能の関係
研究代表者 上野 博史 (東京大学)


「同一の遺伝情報」を持つ細胞集団においても、個々の細胞は同じではない。例えば、同一の遺伝子を持つ細胞集団を薬剤にさらした際に、遺伝的な耐性能を持たないにもかかわらず生き残る一部の細胞(persister cell)が存在する。この耐性は通常の細胞とは異なる「表現型」のひとつとして「確率的」に現れる。我々の最近の研究から、このような表現型の揺らぎは酵素1分子レベルでも生じることが分かってきた。つまり同一のDNAから合成した酵素1分子においてもその活性には揺らぎが存在し、しかもその大きさは分子種によって変動しうるのである。このような「表現型の揺らぎの大きさ」と「進化しやすさ」には相関があり、大きな揺らぎを示す表現型ほど進化速度が速くなるという理論が最近報告されている。しかしこの理論がどういった表現型や進化に適用できるのかは自明ではなく、「酵素1分子の活性揺らぎと進化能の関係」を明らかにした例もない。そこで本研究ではマイクロチャンバーデバイスを用いた酵素の定量進化実験系により上記を明らかにする。
具体的には微小チャンバー(体積:~fL)をアレイ化したマイクロチャンバーデバイスを用いた定量進化実験系を確立し、モデル酵素Alkaline phosphatase (ALP)を高活性型へと進化させていく。その際得られた各世代のALPの1分子活性分布を計測し、活性揺らぎ幅と進化速度との関係を明らかにする。さらに活性揺らぎの異なるALPを起点とした進化実験を行い、起点に用いるALPの活性揺らぎ幅が進化能にどう影響するのかを明らかにする。また高活性変異の選択による定向進化だけでなく、中立変異や低活性変異選択をスクリーニングに取り入れた進化実験を行い、各進化の道筋における活性値の変動と活性揺らぎ幅との関係を明らかにし、それらが進化能、特に最終的な到達活性にどう影響するのかを明らかにする。
脊椎動物の陸上進出による新奇形質の誕生―環境変化により揺らぐ形態形成経路に迫る―
研究代表者 田中 幹子 (東京工業大学)

公募研究 18H04818
研究内容  
脊椎動物の陸上進出による新奇形質の誕生―環境変化により揺らぐ形態形成経路に迫る―
研究代表者 田中 幹子(東京工業大学)


脊椎動物は陸上への進出に伴い、高濃度の酸素環境に曝されることとなった。本研究では、上陸に伴う酸化ストレスによって、新奇形質を生み出した形態形成プロセスの揺らぎの解明を目指す。羊膜類の四肢の形成過程では、指間領域の細胞がプログラム細胞死(以降、指間細胞死とよぶ)によって取り除かれ、指が分離する。一方、両生類アフリカツメガエル幼生の肢芽では、指間細胞死のシステムが確立しておらず、それぞれの指が伸長することによって分離する。このことから、指間細胞死は、脊椎動物が進化の過程で新しく獲得した形質であると考えられている。我々は、ニワトリ胚の肢芽の細胞死領域において、高レベルの活性酸素種(Reactive Oxygen Species: ROS)が検出されること、この領域での ROS の作用を阻害すると細胞死が抑制されることを確認している。このことから我々は、指間細胞死が環境変化によって獲得された形質である可能性を考えた。本研究では各種脊椎動物をモデルに、酸化ストレスによってのみ指間細胞死という新奇形質が出現する系を用いて、四肢の形態形成プロセスの揺らぎを検出し、その分子機構に迫ることで、脊椎動物の上陸に伴う環境変化が新奇形質を生み出す原理を明らかにすることを目的とする。
神経ネットワークの揺らぎは配偶者選好性の進化を規定しうるか
研究代表者 石川 由希 (名古屋大学)

公募研究 18H04819
研究内容  
神経ネットワークの揺らぎは配偶者選好性の進化を規定しうるか
研究代表者 石川 由希(名古屋大学)


ガッチリした相手が好きな人もいれば、スマートな相手が好きな人もいるように、異性への好み(=配偶者選好性)は個体によってさまざまです。ところが、この配偶者選好性は、『同種を好み、異種を避ける』という点で、ほぼ全ての生物において共通しています。この種内で揺らぐ配偶者選好性は、どのように種分化の過程で分岐/固定していくのでしょうか? また、この揺らぎが選好性の分岐や種分化に果たす役割はあるのでしょうか?
 この謎を解くために、私は配偶者選好性をコードする神経ネットワークの種間差に着目しています。キイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエは約540万年前に分岐した姉妹種ですが、自然環境下では全く交雑しません。この生殖隔離には、祖先型の種が持つ雌フェロモン7,11-HDに対する選好性が重要であることが知られています。祖先型に属するキイロショウジョウバエが7,11-HDにより求愛を促進させる一方で、オナジショウジョウバエは同一成分により求愛を抑制させます。このことから、7,11-HD選好性は、この2種の種分化の過程において何らかの機構により分岐し、それぞれの種で固定したと考えられます。一体どのような機構がこの分岐をもたらしたのでしょうか? 
 モデル生物であるキイロショウジョウバエでは、7,11-HD選好性を担う神経ネットワーク(7,11-HD選好性神経ネットワーク)が詳細に解析されています。私はこの7,11-HD選好性神経ネットワークを種間や種内で丁寧に比較することにより、7,11-HD選好性がどのような機構で分化したのか、また神経ネットワークの揺らぎがどのようにこの分化に貢献するのかを明らかにしようと考えています。本研究を通じて、神経ネットワークの揺らぎがどのように行動進化や種分化を駆動するのかを定量的に実証し、『揺らぎ応答理論』が行動形質や神経ネットワークにおいても拡張できるかを検証します。
人工RNA進化システムを用いたRNAの構造揺らぎと進化の関係の解析
研究代表者 市橋 伯一 (大阪大学)

公募研究 18H04820
研究内容  
人工RNA進化システムを用いたRNAの構造揺らぎと進化の関係の解析
研究代表者 市橋 伯一 (大阪大学)


生物進化の方向性に対する制約のひとつとして、揺らぎの大きな表現型が進化しやすいという傾向(揺らぎ応答理論)が提唱されている。しかしながら、未だ実験的な検証は十分ではなく、またその制約をもたらすメカニズムも明らかでない。
近年我々は、生物と同じように変異と自然選択により自律的に進化する分子システム(RNAの自己複製システム)を構築した。RNAの場合、配列情報から表現型である構造とその揺らぎまでを計算することができる。したがって、進化による配列変化が表現型(構造)及びその揺らぎをどう変えたかを曖昧さなく理解することができる。したがって、この系は揺らぎ応答理論の検証とその分子メカニズムの理解のために理想的な実験モデルとなっている。
本研究では、これまでに行った進化実験における各段階のRNA9種類について、構造特異的RNAラべリング実験により構造とその揺らぎを正確に予測し、構造揺らぎと進化により変化した構造に関連があるかを直接検証する。さらに得られた結果から、揺らぎ応答をもたらす分子メカニズムを理解することを目指す。
本研究の特徴は、試験管内で進化したRNAを用いることで、進化制約をもたらす分子メカニズムにまで迫ることである。進化制約のメカニズムを理解できれば、進化の予想や制御も可能になる。これは生命の進化過程における偶然性と必然性の理解につながるのみならず、進化工学の飛躍的な効率化にも貢献する。
生態系の揺らぎ応答関係と内部進化の実験的解明
研究代表者 細田 一史 (大阪大学)

公募研究 18H04821
研究内容  
生態系の揺らぎ応答関係と内部進化の実験的解明
研究代表者 細田 一史(首都大学東京)



本研究では、様々な微生物を試験管内で混合した実験生態系を用いて、生態系についての「短期的な揺らぎと長期的な変化の関係」を実験的に解明するとともに、その実験生態系の中での生物の進化(ゲノムやトランスクリプトームの変化)を解析することで、階層をまたぐ進化の理解を目指す。
生物は、その内部に様々な分子や細胞などのネットワークをもち、また外部では生態系における様々な生物や非生物のネットワークの一部として、階層構造の中に存在する。生物の進化は無制限に自由ではなく、生物の内部ネットワークの構造等による物理的要因と、外部生態系での選択圧の両方から制約を受ける。そしてこの進化は生態系の変化をもたらし、生態系の変化は結局また選択圧として各生物の進化の方向を制限する。よって進化の根本的解明には階層をまたぐ理解も欠かせない。階層システムは複雑だが、異なる階層を同じ理論で記述できればその理解は大きく前進する。
 外部への適応原理である「選択」は、個体レベルだけでなく、分子レベルでも生態群集レベルでも働いている。一方、内部構造による制約の原理は明らかではない。個体レベルにおいて、この制約を表す「揺らぎ応答理論(短期的な表現型の揺らぎと長期的な進化の制約)」が提唱されている(本領域の説明参照)が、この適用範囲はまだ明らかではなく、特に異なる階層である生態系への適用は実験的に調べられていない。よって本研究ではこの点を明らかにする。
 原理的には、生態系の変化にも揺らぎ応答理論のような制約がありえる。もしこの理論が生態系でも解明され、階層間の関係がわかれば、生物の上下の階層である分子から生態系までをまたぐ理論へと発展し、自然選択などを包含した統合理論の構築が飛躍的に進歩する。また人類の緊急課題である生態系変化の根本的理解も躍進するだろう。
植物感染糸状菌の共生性と病原性を規定する分子の進化論的考察
研究代表者 晝間 敬 (奈良先端科学技術大学院大学)

公募研究 18H04822
研究内容  
植物感染糸状菌の共生性と病原性を規定する分子の進化論的考察
研究代表者 晝間 敬(奈良先端科学技術大学院大学)



本研究では、植物根に感染する糸状菌が、同種でありながら同一宿主に対して片や共生型、片や病原型という好対照的な進化の方向性を決定する因子の同定・解析を目的とする。糸状菌Colletotrichum tofieldiae(Ct)は様々な植物から単離されている。モデル植物シロイヌナズナから単離されたCtは貧栄養条件下でアブラナ科植物の根に感染し植物生長を促す(Hiruma et al., Cell 2016)。一方で、他の植物種から単離されたCtの1株はシロイヌナズナの生長をむしろ阻害する病原菌であることを見出しており、異なる地域・植物への適応進化の結果、Ct株間の感染戦略は同種という制約のもとでも共生型から病原型まで幅広く変化していることが推察された。そこで、同種でありながら多彩な感染戦略を示すCt株間での比較機能解析を行い、植物感染糸状菌の感染戦略の可塑性のメカニズムや、その進化の方向性を決めた因子の絞り込みを目指す。さらに、様々な進化圧を宿主内で与えることで、Ctを実験室内でそれぞれ共生もしくは病原の方向性に進化させることが可能か検証する。上記の解析結果を組み合わせて共生菌の進化の方向性を、Ct株内とCt株間の遺伝子発現や表現型の揺らぎから予測できないか考察する。
 植物と微生物の相互作用研究において、微生物の病原性と共生性の境を理解することは重要命題の一つである。同種の(ほぼ同一のゲノムを持つと考えられる)糸状菌が共生型もしくは病原型へと対極的な進化を遂げた要因を探求することで、植物感染糸状菌の進化に関する重要な知見を発見できると期待している。
発現量揺らぎー適応系により探るプロテオームの制約条件とその適応ー進化への影響
研究代表者 守屋 央朗 (岡山大学)

公募研究 18H04824
研究内容  
発現量揺らぎー適応系により探るプロテオームの制約条件とその適応ー進化への影響
研究代表者 守屋 央朗 (岡山大学)



細胞内のタンパク質には、その発現量の変動が適応度に強い影響を与える―強い制約を受けているものと、発現量を多少変動させても適応度に影響を与えない―制約を受けていないものがあります。私たちは、出芽酵?(Saccharomyces cerevisiae)のほぼすべての種類のタンパク質を対象として、それぞれの発現量がどれくらい制約を受けているのかを、独?に開発した発現量揺らぎ?適応系(gTOW法)により調べてきました。その結果、?半のタンパク質の発現量は制約を受けていない??、2%程度のタンパク質の発現量のみが強い制約を受けている事を明らかにしました。本研究では、先?研究で構築されたこの発現量揺らぎ?適応系をハイスループット化することで、課題1:発現量の制約は環境により変わるのか、課題2:発現量揺らぎは適応?進化に寄与するのかを追求します。
ネッタイツメガエル胚発生における転写因子ー標的遺伝子関係の揺らぎ測定
研究代表者 安岡有理 (理化学研究所)

公募研究 18H04825
研究内容
ネッタイツメガエル胚発生における転写因子ー標的遺伝子関係の揺らぎ測定
研究代表者 安岡有理(理化学研究所)



動物の胚発生期における遺伝子発現パターンの進化は、遺伝子発現を制御するシス制御配列が進化し、その配列に結合する転写因子の種類や活性が変化してもたらされると考えられてきた。しかし、遺伝子発現制御機構の進化過程を、遺伝子制御ネットワーク(GRN)の揺らぎとして、個体内あるいは種内といった短い時間スケールで定量的に捉えるような研究はなされていない。そこで本研究では、胚発生におけるゲノムワイドな転写因子機能解析を基に、転写因子―標的遺伝子関係の揺らぎを実験的に測定することを試みる。
 実験にはNBRPによって維持されている、高度に近交化されたネッタイツメガエル複数系統を用いる。シス制御配列、転写因子結合、標的遺伝子発現の揺らぎをゲノムワイドに測定し、転写因子―標的遺伝子関係の揺らぎを定量化する。進化的保存性の異なる転写因子間での比較や、異なる発生ステージ間での比較を通じて、「進化しやすさ」を支える分子基盤を明らかにする。転写因子―標的遺伝子関係の近交系統内での揺らぎが系統間での揺らぎに反映されているのかを検討し、領域の計画研究と連携して発生進化シミュレーションの発展を目指す。
 本研究の特色は遺伝子発現の揺らぎを生み出す制御システムの揺らぎに着目した点にある。ツメガエルの実験材料としての利点を最大限活用したものであり、日本の研究リソースの有用性を世界に示すことができる。本研究で種内でのGRNの揺らぎを測定できれば、今後はさらに近縁種間での揺らぎへと研究を発展させることで、進化しやすい標的遺伝子を規定する一般原理の解明というより大きな成果へつながることが期待される。
ゲノム倍数性がもたらす進化可能性~揺らぎと安定性の両立~
研究代表者 大林 龍胆 (国立遺伝学研究所)
連携研究者 畠山 哲央 (東京大学)

公募研究 18H04827
研究内容  
ゲノム倍数性がもたらす進化可能性~揺らぎと安定性の両立~
研究代表者 大林 龍胆 (国立遺伝学研究所)
連携研究者 畠山 哲央 (東京大学)



本研究では染色体(ゲノム)倍数化が生物進化に及ぼす影響を実験と理論の両面から解き明かすことを目的とする。ゲノムの倍数化は、現存する様々な生物種において観測される形質である。しかし、ゲノム倍数化が進化に及ぼす影響については、いくつかの仮説があるものの、定量的な検証はほとんどない。ゲノム倍数化と進化の間の関係について、最も有名な仮説は大野乾によって提唱されたゲノム重複説であろう。これは、ゲノム重複により冗長性が生じ、正常な遺伝子を保持したまま、コピー遺伝子を改変でき、新規形質の進化が促進されるという仮説である。この仮説は近年のゲノム解析により実証されつつある。ゲノム重複説によれば、ゲノム倍数化は進化的に有利な形質であるように一見思える。他方、進化速度の観点では、ゲノム倍数化は進化的に不利な形質であると考えられる。集団遺伝学におけるFisherの基本定理によれば、進化における適応度の増加率は、適応度の分散に比例する。つまり、表現型の「揺らぎ」をより大きくした方が、進化速度をより速くすることができる。1細胞あたりのゲノムコピー数が多い状態では、1つのゲノムに変異が入っても、その影響がゲノム数の逆数程度の大きさになってしまうため、揺らぎは小さくなり進化速度は遅くなるだろう。そこで、本研究では、1細胞あたり複数コピーのゲノムを持つ原核生物であるシアノバクテリアを用いて、上記のゲノム倍数化の進化理論を定量的に検証し、新たなゲノム倍数化進化の数理モデルを作成することによって、ゲノム倍数化と進化の関係の普遍的な理論の構築を試みる。
テントウムシ斑紋の揺らぎから探る表現型進化の制約と方向性
研究代表者 新美 輝幸 (基礎生物学研究所)

公募研究 18H04828
研究内容  
テントウムシ斑紋の揺らぎから探る表現型進化の制約と方向性
研究代表者 新美 輝幸 (基礎生物学研究所)


ナミテントウは、極めて多様性に富む斑紋多型を有する昆虫である。この多様な斑紋パターンは、単一遺伝子座に座位する複対立遺伝子により支配されており、それらの組み合わせによって決定されることが古くから明らかにされてきた。また興味深いことに、ナミテントウの紅型では温度や性に依存して黒点のサイズが揺らぐことが知られている。我々は、ナミテントウの斑紋多型を司る斑紋プレパターン遺伝子の同定に成功した。さらに、この遺伝子が有する翅の黒色領域を決定する機能は、他のテントウムシでも保存されていることを明らかにした。また、従来の「非モデル生物」であったナミテントウにおいて、トランスジェニック技術・ゲノム編集技術・RNA干渉法といった遺伝学的な解析手法を開発してきた。
 本研究では、テントウムシにおいて温度という環境変化に対して斑紋の黒点サイズが揺らぐ現象に着目する。研究材料には、種・属・科のレベルで斑紋に多型性および単型性を示す各種テントウムシを用いる。我々が世界に先駆けて同定した斑紋プレパターン遺伝子に焦点を絞り、温度の揺らぎに応じて黒点サイズを決定する発現制御領域の実体を実験的に解明する。その上で、この発現制御領域のどのような改変により黒点サイズの揺らぎの振幅が種内や種間で変動していくのかを調査する。これによって、表現型進化に制約と方向性をもたらす要因と機構を分子レベルで明らかにすることを目指す。
 
2020-2021年度 公募研究の募集に関しては、文部科学省 - 科研費 から最新情報をご確認ください。